生物多様性が重要だということは広く認知されていることでほとんどの人が疑いませんが、ではなぜかとその理由を問われたときに言葉に詰まる人が多いのではないかと思います。
釣り人の中には、極端にウグイを忌避する人もいて、意図的に川に戻さず殺す人もいるみたいです。極論を言うと、本来は外来種たるトラウト類こそ水からひきあげ殺されるべきなのですが、ここでは掘り下げないことにします。
ちょっと前になりますが、多分テレビだったと思うけど有名なIT関係の人が「生物多様性なんて無くてもなにも困らん」という発言を強い口調でしているのを見ました。多くの種が絶滅していくのをもう止められないし放っておけばよい、そんな主張でした。
私も生物学的に多様性の重要性を説明せよと言われても困ってしまいますが、でもここは感情論で言うとこうなります。
川に虹鱒だけではなく、山女魚も岩魚も、そしてウグイもサワガニもカワカジカもいたほうが楽しくないですか?と。
ということで今回もいろいろな魚、鳥に出会えればいいなと期待し渓流に向かいましょう。
山女魚を釣りたい
ここ数回、山女魚がいる川で釣りをするようになって、私もやっと真剣に”アワセ”について考えるようになりました。
いままで遅アワセのテンカラを自信をもって地で行っていたのですが、遅アワセとは要するに自分で引っ掛ける動作をせずに、魚の口にハリが引っ掛かったら”釣れる”というスタンスとなります。
山女魚は毛ばりの真偽を判断するスピードが非常に早いと言われているので(0.3秒という説もある)その瞬間にアワセを行うのが山女魚釣りにおいて肝心だとおっしゃるプロもいます。
それを実行するには毛ばりをいつも見える状態にしておく必要があります。そして山女魚が口にくわえたその刹那にラインにテンションを張るというもはやオカルト的な名人芸が求められるようです。
しかし私にとってそれは現実的ではありません。いつでも毛ばりを目視できる釣り方は不可能だし、すっぽ抜けたときに周囲の木に引っ掛かるようなフィールドでの釣りが多いからです。ということで、すぐにできる対策は以下の2点でしょう。
- タックル全長を短くする
- ラインをなるべく張る
タックルの総延長が長いとそれだけ反応までの時間が長くなってしまいます。そしてしなりが多い柔らかいロッドだと魚が毛ばりを口にした瞬間にアワセても実際にはワンテンポ遅れて毛ばりを引っ掛ける動作を行うことになります。
そしてキャスティングするときはラインに遊びがない状態を心がけます。なおナチュラルドリフトのためにはある程度の”たるみ”は絶対に必要となるので、それを保ちつつ最低限の遊びとします。
今回は終日それを心がけて、短いロッドのみで釣り歩いた次第です。
ロッドとアプローチ
ロッドの長さについてもうちょっと語らせてください。
私はテンカラを始めたときからしばらくは3.6mのテンカラロッドを使用していました。レベルラインの長さは3.2mほどで、その時々でハリスの長さを変更し様々なフィールドへ対処してきました。
中規模河川でも釣りをするようになり3年前から4.5mのロッドに持ち替えたんですが、一度4.5mのロッドに慣れてしまうと3.6mは非常に短く感じ、久しぶりに使用すると「え、こんなにポイントまで近寄らないといけないの?」と感じます。
4.5mだとフライとそんなに変わらない距離感でポイントに毛ばりを落とすことができます。しかし狭い渓流では、長いぶん取り回しが困難で空中で弧を描くようにキャスティングする本来のテンカラではなく、毎回イチイチ指で毛ばりをつまんでから毛ばりを飛ばすフリッピングが主となります。
こんな感じで手間はかかるしロッドは重たいしで長いロッドは不便ではあるのですが、魚へのプレッシャーを考えるとこのわずかの違い(2m程度)は釣れる釣れないを決める大事な要素だと思います。でも先ほども書いたようにアワセに関しては不利になるというジレンマを抱えているのです。
さぁ、字数を稼いでばかりいないで、ぼちぼち当日の釣りの話をしなければいけません。
鵡川支流
まずは前々回に濁流と化していた川に降りてみました。この川は鵡川に直で注ぐ支流で基本的に山女魚の川です。初めて入る区間だったのですが、高低差がほとんどなく、川に落差がないと水が流れる音もほとんどしなくて河原は不気味なほど静まり返っています。
上空には猛禽(おそらくオオタカだった)が舞い、河原には襲われた野鳥(おそらくダイサギ)の純白の羽が散乱し、よく見るとエゾシカの足跡に交じって巨大なヒグマの足跡もうっすら残っていて、なんだか血なまぐさいホラーな雰囲気です。
流れが穏やかだとそれに比してポイントは減り、こちらの歩く音も魚に伝わりやすくなるので難しい釣りになります。そして居るのが件の山女魚ということもあり魚を引き出すにはピンポイントに狙った場所へ毛ばりを落とす必要があります。とにかく難しく気が抜けません。
焦る気持ちを押さえつつゆっくり釣りあがっていきます。途中なかなかの大きさの魚が私の毛ばりの周囲をグルグル回る様子を見たりもしましたが、やはり警戒しているようですんなり口に咥えてくれません。トップで反応があったところでは毛ばりを沈むタイプに切り替えて再度流すと反応が続きます。
小さいけどとりあえずヤマメを2匹だけ手元まで寄せることができました。
そしてこの日はウグイも交じりました。でも石や倒木の下から出てきて毛ばりに向かってくる魚は動き的にウグイではないと判断できます。ウグイは流れのユルイところでじっとしているものです。
断続的によいサイズのヤマメも水面まで出てきてくれましたがキャッチには至らず、2時間ほど釣りあがり道路が近くなったところから脱渓しました。腕時計を見ると時刻は12時を少し過ぎたところ。
腕時計の電池
いささか話がそれますが、私は同じ一つの時計を20数年使い続けています。
それは学生時分に友人がくれたものなんですが今まで故障もなく私の時間の浪費を刻み続けてきました。時計は大切にしてるのですが肝心の”時間”を大切にできないのが私というダメ人間です。
その時計ですがここ数年、電池切れのサイン(秒針が数秒まとめて一気に進む)が電池交換から一年後くらいに発生するようになりその都度イオンのお直しコーナーで電池交換をしてもらっていました。作業料金は1000円弱なので気にならないが、なんせ年に一度はあまりにも多すぎるような気がする。
そして先日、引っ越したので近所のスーパーの奥まった死角にある年季の入ったお直しコーナーでいつものように電池交換をお願いしたんですが、無口なおじさんはルーペを目に装着し他店よりもじっくりと時間をかけて作業をし、おもむろに顔をあげてこう言いました。
「前はいつ交換しました? まだ電池の残量はけっこうあるよ。どうします? 交換してもいい?」と。
この時計のようなクォーツ時計は秒針が一気に進むようになると電池交換のサインで私もそれを疑ったことは無かったのですが、それでも以前よりはそうなる頻度が高くなっているような気はしていたので、どうやら経年劣化であまり電池が減っていない状態でもこの症状が発生するようになってしまったのかもしれない。
いままで多くのお店で電池交換をしてきましたが、こういう誠実な人はとても珍しく、細かいことを省略せずに伝えてくれることはこちらに新しい知見(ちょっと大げさですがこの一言で秒針が一気に進むようになってもまだ電池は十分にあるということが分かったのだから)を与えてくれます。
むしろこの一言でこの職人さんを信頼し仕事をしていただきたいという気持ちになるものです。「お願いします」と伝えたました。
今後は秒針が一気に進むようになってもしばらくは使い続けようと思っています。腕時計は釣りの時にも欠かせない道具の一つ。
そのうちデフォルトで秒針が一気に進むようになるかもしれません。その時はいい加減修理をしなければいけません。いや私の頭ではなくて時計の話ですよ。あくまでも。
穂別川支流
さて、先ほどの川から上がり道路を歩いている最中にモズを見かけました。
電線などにとまっているいる場合はパッと見スズメにも見えますが、もっと直立していて目には黒いサングラス状のラインが入っています。モズを見ると毎度、漫画家の富士鷹なすびさん作「原色非実用野鳥おもしろ図鑑」のモズとその一味を思い出してしまって笑ってしまいます。
車内で冷房を効かせて一息つき、近くの川に向かいます。途中渡った鵡川の本流ではダイサギの姿が散見され、マガモの群れが車と並走して飛んでいきます。遠くの青白い空には鳥らしき点々が多数見えます。秋の渡りの時期なので夏鳥が南へ移動を始めたのでしょうか。
そんな感じでダラダラやってきた次の川は釣りにならないくらいに濁っていたので、そのまま前回も入った山女魚の川を一区間だけ探ってみることにします。同じ川に入れば入るほど効率的に探ることができるようになっていくので、そういう時に成長を感じ今まで費やしてきた時間が無駄ではなかったなと実感できるのです。
”一度しか入らない川”をいくら積み重ねても成長を実感できませんが、一つの川をじっくり上から下まで入渓点とポイントを開拓していくと、広く浅く釣り歩くよりも明らかに釣り経験値がたまり自信がつきます。
私にとってその最初の川は豊平川でしたが、今では夕張方面にすっかり詳しくなりました。もしあなたが渓流熟練度をあげたいとお思いなら、これだと一つ決めた川に通い熟読してみることをおすすめします。
夕張で粘る
最近の定番コースになってきましたが、帰りにちょっとだけ夕張川の某支流に入って大型の虹鱒を探してみます。相変わらずコンデションは素晴らしく豊富で透き通る水が下流めがけて蛇行しながら流れていきます。いい季節です。
実績のある主だったポイントに毛ばりをポトポト落としていきます。反応はよく大きい魚が私の手製の毛ばり目当てに水面までわざわざ出てきてくれますが、するっと通過してまるで「はい、ニセモノ!」と見定めるように反転してまた薄暗い水底へと帰っていきます。
水面でダメなら沈めてやろうとニンフに切り替え同じラインを流すと、今度は水中で試しに咥えてくれるのですがわずかのテンションを感じた途端に「はい、ツリビト!」と言わんばかりに口を緩めて毛ばりを吐き出しどこかへ泳ぎ去るのでした。結局釣れたのは25cm前後が4匹のみというなんともしょぼい結果。
途中珍しくフライの先行者を目撃し、彼の視界に入る前にそそくさと来た道を引き返し少し早かったのですが今日の釣りはここまで。私は他の釣り人がいた場合極力近づかないようにしています。
目的の釣り場に車が止まっているときもほかの場所を探すようにしています。わざわざほかの釣り人の一人の時間を妨げるようなことはしたくないのです。これはアレです、自分がしてほしくないことは人にしてはいけない理論というやつです。
入る予定だったポイントに先行者がいて入れなかったとき、これはむしろ、釣りの時だけは気持ち悪いくらいに前向きな私は「これは僥倖だ。たぶん今日は他に入るといいことがあるゾという魚釣神の思し召しだ」と考えるようにしています。
日常の事象に対してもこの前向きさと鷹揚さが欲しいところです。
釣行データ
天気と気温
- 晴れ時々曇り
- 現地最高気温26℃
タックル
- ロッド:DAIWA NEOテンカラ36
- ライン:レベルライン3.5号
- ハリス:フロロ1.2号
- 毛ばり:#12ドライテンカラ毛ばり
釣った魚
- 山女魚2匹(最大18cm)
- 虹鱒6匹 (いずれも25cm前後)
確認した野鳥
- カワラヒワ
- シジュウカラ
- ハシブトガラ
- モズ
- アオジ
- ヒヨドリ
- ムクドリ
- ダイサギ
- アオサギ
- カワガラス
- キセキレイ
- コゲラ
- アカゲラ
- キジバト
- トビ
画像はキセキレイです。この鳥はカワガラスとともに渓流で頻繁に目にする鳥ですが、カワガラスと違って渡りをする鳥(夏鳥)であり、もうぼちぼち九州やさらに南の東南アジアの国々へ渡っていきます。
名前にキセキが入っているので縁起がよさそうですが、毎回見られるとなるとご利益は限りなく薄まってしまいます。
なお、本州では留鳥で一年中みられるようです。そういう鳥は意外と多くて本州の人にとっては当たり前で身近な鳥であっても我々陰気な北海道人にとってはレア種、なんてことはざらにあります。その逆もまたしかりです。ジョウビタキなんかレア種ですもん、こちらでは。
3回連続で同じエリアの同じような川に入って、さすがに景色にも飽きてきたところです。次回は確認したいことがあるので美唄芦別方面に行くことになるでしょう。
北海道の渓流釣りはまさにベストシーズンに入ったところ。3連休も続きますし釣りに出かけるなら今がおすすめです。ヒグマ情報を参照しつつ安全に釣りに出かけてください。