テンカラは毛ばりをフィールドでたびたび交換する必要がある釣りなので、いつでも取り出しやすいところに毛ばりを刺したケースを準備しておかなくてはいけません。
以前はプラスチックのピルケース等を使っていましたが、自分で作ってみたくなりアレコレ工夫して何とか使いやすくて見た目もよい、木製のケバリケースが完成しました。
この記事ではその概要と実制作について簡単にご紹介をしていきます。
毛ばりケースに求めるコト
コンセプト
海外、特にフライやテンカラが盛んなアメリカ、カナダ、ニュージーランドのサイトを覗くと様々な形状、アイデアの作品を参考としてみることができます。
テンカラは和の釣りなので、海外の人が作るテンカラ毛ばりケースは過剰に和を意識したものが人気で、竹製でかつ焼き印が押されているもの、木製で漢字やトラウトのカービングがされているものが人気みたいです。なかには”テンカラ”とカタカナで書かれているものなんかも。
形状は大きく分けると以下の二つに大別されるでしょう。
- 箱型
- カードタイプ
箱型はフタ側にも深さがありそれを丁番で開閉し留め金やマグネットで押さえる定番の形です。こちらの商品なぞがその典型です。
カード型はフタがただの板状のもので、それをスライドさせたりして開け閉めする仕組みになります。以下のようなものです。いい感じです。
箱型でかつ両方を同じ形状にしてガバっと開くタイプが最も目にするものだと思います。ソフト素材(皮や各種ファブリック)やプラスチックのものは多く見かけますが、木製のものは少ない印象です。
木にすると最低限の厚みが必要だし重くなるしでぶっちゃけてしまうとケースには向かない素材とも言えますね。上記の竹の製品もちょっと野暮ったい印象です。
木を使ったときは削りだすか組み立てるかでも違いが生まれます。見た目にも加工にも大きな違いが生じますね。どちらかというと小さいものは削り出し、大きくなるにつれ組み立て型が有利になると思います。上のリンクの竹製のものは削り出しではなくて枠を組み立て板を接着する簡易な構造です。
デザイン
さて、私が実際に使いたい毛ばりケースとはどんなものかとしばらく考えた結果、以下の要素は外せないなと結論づけました。
- ストラップを通せる
- 収納個数は少なくてOK(10~15前後)
- 手のひらサイズ
- 片手で操作が可能
- 気持ちがいい操作感
この中で最も需要な要素は、片手で操作が可能という項目です。毛ばりをつまんで取り出しそのなかまま持ち替えずにフタを閉じることができると、取り回しが容易ですし毛ばりを落とすことも減るんじゃないだろうか。
さんざん迷っていくつか試作もしてみた結果、カード型の最もシンプルなタイプ、対角線にマグネットと軸金物を配置し、左手親指でずらして開閉するスタイルにしました。
先ほどの例(Handmade Cedar Wooden Fly Box)のような回転軸が中央にあるものも検討しましたが、指でズラしたときに角がそろっていたほうが違和感が少なかったのでこのような構造にした次第です。
通常右手でロッドを握る人は、フライケースは左手で持ち右手の指でフライをつかむと思います。それを踏まえて軸の位置を決定しました。
材料
木を使う場合、不利な点(大きく重たくなる)を考慮しても使いたくなるような木っぽさを前面に出した木製ならではの味わいがあるものにしたいところです。
本体もフタも極力目の細かい柾目部材が向いていると思います。フタはただの板なので丈夫で狂いがなければ何でもいいですが、本体側は掘らないといけないのである程度やわらかく、かつ狂いにくい材が良いでしょう。
クルミ、カツラ、サクラ、ホオなどが適していそうです。もちろん、乾燥済みであることが前提です。
今回は手元にあったチェリーを本体に、ブラックウォルナットをフタに選び制作をしてみました。
実制作の手順
木取り
まずは大きな板から部材をのこぎりで切り出します。厚みのある大きな板からたくさん部材を木取ると制作単価を安く済ますことができますが、数個の制作であれば手ごろな板材をネットやクラフトショップで購入するといいでしょう。
厚みは本体は15ミリ、フタは5ミリです。それを80×50ミリの寸法で切り出しておきます。
墨付け
端から6ミリに毛引きで線を引きます。仕上げで外側を削って丸みを持たせるのでこの段階では太めにしておきましょう。
向かい合う角に斜めの線も忘れずに引いておきます。軸金物とマグネットが無理なく入るスペースを確保したいところ。でも大きく余裕を取りすぎても見た目に違和感が出てしまいそうです。
ストラップをかける部分の飛び出しは長さ15mm、幅は10mmとしました。
溝の加工
早くもこの制作のハイライト、溝掘りです。まずはドリルでラフに穴をあけて仕上げ線より2ミリ程度をのこして角をきれいにとります。
のみで掘っていきます。上の動画のように木目と直行するように動かします。刃裏を下にすると木に食い込んでたくさん削れますがラフな仕上がりになり、刃裏を上にすると少しずつ削ることが可能なので、適宜ひっくり返して使い分けましょう。
仕上げは刃裏を自分の方に向けて引っ張ってくるように削ります。この直角に立てた刃の動きは台直し鉋と同じ原理ですね。使い方としては間違っておらずこのような底の仕上げに利用されます。
いずれの動きでものみは早く消耗するので頻繁に研ぐ必要があります。面倒ですが仕上げのきれいさに直結するので面倒くさがらずに切れが止んだらすぐ研ぐようにしましょう。
底がきれいに削れたら、周囲を仕上げ線まで落として内側は完成です。
ドリルで穴あけ
軸金物、マグネットが入る穴あけをします。手持ちのドリルだと斜めになりやすいので注意してください。軸金物が入る穴は少しきつめにしないとすぐに緩んでしまいます。
今回の金物は4ミリのネジなので3.5mmのドリルが理想的ですが手元にないので、ある程度まで4mmで開けてから奥の方は3mmとしました。
成形
上記の加工が済んだら、ストラップ掛けの部分をのこで切りだし穴をあけ、全体の面取り(角を落とす)をし表面を仕上げていきます。私は小刀と丸刀で全体的に丸みを持たせるように仕上げました。
ここで全体の印象が決定するので大切な工程です。そのまま平面とカドをのこすとスタイリッシュな印象に仕上がります。そうしたい場合は蓋も薄めにしたほうが無難です。
塗装と組み立て
サンドペーパーなどで素地を荒らしてからオイル塗装をします。鉋やナイフの仕上げ面そのままではオイルなどの塗料がうまく乗らないので、いずれにしてもペーパー掛けは必要な作業ですね。
エポキシ系など強力な接着剤でマグネットを固定しフタを軸金物で取り付け、最後に毛ばりを刺すコルクを貼り付けて完成です。コルク以外にEVAのフォームでも使いやすいと思います。見た目重視で今回は3mm厚のコルクを貼りました。
制作をしてみて
いくつか試作をして木材を無駄にしたかいもあって、一応納得のいく形状のものを作れるようになりました。
ストラップを通す穴は木らしいプリミティブな形にしました。はずかしい話ですがこの形を思いつくまでに2週間ぐらいかかっています。意外にも同じようなものを作っている人がネット上に見当たらなかったこともありアレコレ検討して試作もした結果この形に落ち着いたということです。
もともと軽いものでストラップ部分に重さはかからないので強度的にはまったく不安はなさそうです。
今回はすでに制作している人の作品をお手本にしてベースとなるアイデアを練ることができたので特段むずかしい箇所は無かったのですが、何分小さなものなので意外と繊細な加工が要求されました。制作にあたりある程度の手先の器用さは必要かもしれません。
ということで、「首から下げて片手で開閉し毛ばり交換がスムーズに行える木製毛ばりケース」の完成です。ぜひこの記事を参考にあなたもオリジナリティあふれるテンカラ毛ばりケースの手作りに挑戦していただけますと嬉しいです。