アルケミストを読んだけど、なんだかもやっとしていてよくわからないという人は多いのではないでしょうか。「星の王子様」や「ゲド戦記」を彷彿とさせるような、ちょっと何を言っているのかわからないんですけど…って表現が、特に砂漠に入ったあたりから出てきます。
ひとつひとつかみ砕いて理解できると、この本の持っている本当の魅力を理解できると思います。というわけであくまでも私の解釈ですが、簡単に説明してみます。
アルケミストのストーリ
まずはストーリーのおさらいです。
主人公の少年サンチャゴは羊飼いでした。元は神父になるため神学校に通っていましたが、もっと広い世界で生きていきたいと願い、親を説得し羊飼いになったのです。
羊飼いとしての生活にもすっかり慣れ、羊たちのことや放牧生活のことにも詳しくなった時、不思議な夢を見たり、変な老人に出会ったりします。そしてサンチャゴ少年は新たな夢を持ちます。
それは宝物を探し求めてピラミッドに行くこと。
ジブラルタル海峡を船で渡り、モロッコのタンジェに着きます。そこで全財産をだまし取られてしまいますが、偶然立ち寄ったクリスタルを売るお店で働くことになり、彼はそこで新しいアイデアを次々に出し、売り上げを何倍にも増やしてしまうのです。
故郷へ帰る運賃と、羊を買い戻すためのお金を貯めたサンチャゴ少年は、クリスタルショップを後にしますが、その時、本来の目的を思い出します。彼は宝物を求めてピラミッドへ向かう最中だったのです。
モロッコからピラミッドまでは何百キロという砂漠地帯を旅しなくてはいけません。そのため砂漠を渡る隊商に紛れ込んで旅をします。
そこで奇妙なイギリス人に出会います。そのイギリス人は錬金術師を探して旅をしているというのです。サンチャゴ少年は錬金術師(アルケミスト)という言葉をその時初めて知りました。
普通の金属を金に変えることができる錬金術。そしてそれを極めた錬金術師。イギリス人はラクダの上でもひたすら本を読んで研究を続けます。一方サンチャゴ少年は隊商の人たち、ラクダとか周りのことを観察しながらのんびりと旅を続けます。
ということで…サンチャゴ少年はピラミッドにたどり着いて無事に宝物を手に入れることができたのだろうか? この先は読んで確かめてください。
パウロ・コエーリョ「アルケミスト」に書かれていること
簡単に言ってしまうと「前兆」「運命」「宝物」がこの小説のテーマになります。そして、名言のオンパレードとなっており、どのページを開いても、心にグサッと刺さる言葉に出会うことができますよ。
キーワードとなる言葉がいくつかあるのですが、それらからこの小説が伝えたいメッセージを読み解いてみましょう。
錬金術師(アルケミスト)の存在
錬金術とは鉛なんかの普通の金属を金に変えることができる、ありえない非科学的なものです。でも、イスラム世界では古くからこの技術は研究の対象であり、魔術でもありました。それを可能にする錬金術師(アルケミスト)が主人公の前に現れ、彼の行く道をサポートします。
実は錬金術師に会いたかったのは、主人公ではなくイギリスから来ていた錬金術研究者でした。そのイギリス人はひたすら専門書を読み、錬金術師がいるという噂を頼りに砂漠までやってきたのです。
そのイギリス人は意志が強くなんでも自分の力でやり遂げようとします。良くも悪くも周りに流されません。いつも錬金術のことを考え多くの本を読み漁り、錬金術師に合うことだけが目標で、身の回りで起こっていることには無関心でした。
イギリス人ではなく主人公が錬金術師に会うことができたのはなぜなのか。その理由を間接的に錬金術師は語っています。
学ぶ方法は一つしかない。それは行動を通してだ。P148 アルケミスト Pコエーリョ
錬金術とはすべてを金に変える「考え方」
イギリス人が求めていた錬金術とは、鉛のような普通の金属を、貴重な金属である金に変える技術でした。そんなことが可能になったら、当然莫大な富を築くことができるでしょう。
でも、実際にはそんな技術は存在しません。この物語の中で出てくる錬金術という言葉は、考え方を変えて身の回りのすべてを貴重なものにしてしまおう、というニュアンスで語られています。
主人公は旅の途中でそのことに気がつきます。錬金術とは、身の回りの何気ないことを輝かせることなんだと。
鉛には鉛の、鉄には鉄の運命があり、それらモノが持つ本来の運命を尊重してこそ進化が可能になる。それはもちろん、自分にも当てはまるのです。
この物語の核となるメッセージは、「前兆」と「運命」です。それらは周囲の自然や出来事から感じることができると物語の中では語られています。
本の中ではなく、自分の周囲で実際に起こることやかすかな前兆を感じようとしていた主人公が、結果的に錬金術師に出会います。そして、錬金術というものが何なのかを知ることになるのです。
錬金術師は錬金術をこう定義します。
錬金術とは、魂の完全性を物質界にもたらすことなのだ P169 アルケミスト Pコエーリョ
魂の完全性とは、運命を受け入れることだと私は解釈しました。これはすべての物質に当てはまりますが、心と体がある人間には簡単なことではないのです。
前兆とメッセージを感じ取れるか
求めることを求めるのではなく、自分が求めるものを前兆から感じ取る力、そんなところです。良い意味で流れに身を任せて、運命を受け入れる、運命の自然な流れこそがその人の人生だ、というメッセージが強いです。
でも、家でじっとしていたのでは、多くのメッセージを受け取ることができません。積極的に行動をして身近に起こる出来事をよく観察する必要があります。
例えば、駅で偶然知り合いに会ったり、電車に乗り遅れて歩く羽目になったり、良いことも悪いことも、そこには意味があります。
その意味を、偉大な存在からのメッセージとして感じ取ることができるのかが、人間にとって大切になります。意志であり意志ではない、自然と一つになるような感覚なんです。
羊は夢を追わない人の代名詞なのか
物語の中で羊は、ただ水と食べ物を毎日求める、つまらない思考停止の存在として描かれています。家を維持し、毎日食べ物のためだけに働いている人は、そんな羊にたとえられています。
この羊に関してはそのままその解釈を受け入れてもいいかもしれませんが、私は別な見方をしてしまいます。実は、夢など追わずに何も考えずに水と食べ物のために必死になっているほうが良いのではと。
要するに、熱中してほかのことは考えない状態こそが、宝物なのかもしれないということです。
作者にそのような意図があったかどうか、私にはわかりません。でも、迷わないことが一つの正解だとすると、羊の生き方は決して悪いもんじゃないでしょう。
なにかと言われるパン屋の存在
パン屋はそこに居を構えて安定した仕事を持ち、周囲の人からも一目置かれる存在です。でも、それを維持することが目的になってしまっています。
サンチャゴ少年が選んだ道はそれとは正反対のものです。一度手に入れて慣れ親しんだものをあえて手放したり、またアクシデントで手放したりします。
アクシデントで手放すことになっても、それには意味があり、運命が次の扉を開けてくれたと前向きにとらえるのです。
あなたはパン屋になっていないでしょうか? 今日一日を衝動に任せて生きるのも悪くないのかもしれません。
オアシスと戦争
砂漠をピラミッドに向けて旅をしている最中に、主人公たちは戦争に巻き込まれます。そこにはルールがあり、それぞれの思惑で微妙にバランスがとられている、秩序ある戦争が描かれています。
その秩序も、人間が決めたものではなく様々な前兆、神からの啓示に基づいていて、コントロールできるものではないというメッセージが感じられます。
休息場所であるオアシスと、人の命を脅かす戦争が表裏一体となって存在しているさまは、ふだん恐れから行動できずにいる私たちを刺激する、比喩の一つに感じました。
オアシスにとどまる人もいれば、そこを這い出て旅に出る人もいます。かといって戦争に巻き込まれることも良しとしない毅然とした態度が必要になります。
物語中で語られる「宝物」とは?
最後の場面はとても印象的です。少し出来すぎている感もありますし、予想通りだったと感じる人もいるでしょう。私はすべてが、スッと腑に落ちて感動すらしました。
ネタバレになるので詳しくは読んでみてほしいのですが、この物語の軸となる考え方は、常に前兆とか運命に従って、動き続けることこそが幸せであり人生の宝物だ、ということだと私は解釈しています。
何も経験をしないまま、今自分が持っているものが最高だと信じていることと、様々な経験をした後で、実は今自分が持っているものが宝物だったんだと知ることには大きな違いがあります。
恐怖で動けない人は、自分を正当化するすべとして、今の境遇が最高のものだと自分自身に言い聞かせて毎日を過ごします。
たどり着く結論が全く同じだったとしても、それを恐怖と根拠のない思い込みからなのか、様々な経験をしてひどい目にあってやっと気づいたのかには、雲泥の差がある。
そして、当たり前のしあわせに気がつくために、人間は旅に出るべきでそれこそが宝物なんだという作者からのメッセージの一つでしょう。ちなみに旅とは旅行ではありません。新しいことに触れ続ける、という意味です。
未知への恐怖
サンチャゴ少年が実際にジブラルタル海峡を渡ってモロッコのタンジェに行くまで、何年もかかりました。それはお金がなかったわけでも、状況が許さなかったわけでもありません。
ただ根拠のない漠然とした不安と恐怖、それがときに簡単な前進を阻むものになるのです。
私たちにも全く同じことが当てはまります。2時間でできること、1万円でできることはたくさんあるのです。それができないのはなぜか、答えは「ただ怖いから」なのかもしれません。
ふと思ったときにそれを行動にしてみる、そんな良いクセは人生を豊かにしてくれるでしょう。
今を生きるためには?
よく使われる言葉で「今を生きろ」というものがあります。
私はこの本を読むまで字面通りに「今目の前で起こっていることに集中しなさい」という解釈をしていました。そして何かしっくりこない感覚をずっと持ち続けていました。
このことについて、この本はしっくりくる回答を示してくれています。
彼は過去の教訓と未来の夢とともに今に生きたいと思った P102 アルケミスト Pコエーリョ
砂漠、風、太陽そして「すべてを書いた手」
砂漠で風になるという約束をしてしまった少年は、その方法を模索します。錬金術師に聞いても答えを教えてくれません。
砂漠、風、太陽と順に対話をしていきますが、彼らが知っていることは自分ができることだけで、運命(与えられた役割)を変えるすべを知りませんでした。
最後に対話をすることができた「すべてを書いた手」は簡単に言ってしまうと創造主みたいなものですが、目の前にあるものとの対話を繰り返すことによって、主人公はその境地にまで達することができたと、私は受け取りました。
くり返しになりますが、自分と他者の運命を尊重し対話を繰り返すことによって、はじめて自分の運命の軌道修正も少しだけ可能になるのです。
まとめ:アルケミストが伝えたいこと
- 宝物とは、ずっと何かに熱中し続ける状態そのもの
- 「前兆」は身の回りに誰のもとにも現れる
- 心の声を納得するまで聴き続ける
- 今を生き、自分と他者の運命を尊重する
ここまでいくつかのキーワードから、アルケミストという物語を紐解いてみました。そして全体を通して言えることは上記の4点でしょう。
人はめっちゃ弱くて迷う生き物です。だから自分はダメなんだと思わないでほしいのです。道に迷うときは道に迷うこと、それが運命に従うということ。でも諦めずに、そんなときには過去の教訓と未来の夢を頼りに今を生きなくてはいけない。
迷わないことを求めて人間は目標を設定し、安住できる状況を探し求めるのですが、そのような生き方は僕たちが本来持っているドキドキワクワクを奪ってしまうものです。
「生きることとは?」について改めて考えさせてくれる、素敵な本がこの「アルケミスト」です。皆さんもぜひ手に取ってください!