【コツをイラスト解説】鉋がうまく研げない人はこれを見てくれ!

DIYを卒業し本格的な木工に移行する際の第一関門は刃物研ぎになると思います。しかし、「研ぎ」は木工の基礎なのにもっとも難しいのです。

でも、刃物を自由に扱えるようになると制作の幅はぐっと広がります。

ということで、今回は鉋の研ぎ方について解説します。昔の私がそうだったように、職業訓練校の木工科に通っている人やうまく研げずに悩んでいる人に読んでいただければ幸いです。

私はブランクもありますが、木工歴20年の作家です。

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【一番大事】砥石の選び方と使い方

用意する砥石は、中砥石は同じものを2枚、仕上げは1枚、この3枚だけで大丈夫です。私の経験上、以下の組み合わせが最も安価で確実です。

1000番を2枚、仕上げは6000番を1枚(もっとも安価なキングSー3で充分です)。キングは品質が安定しています。そして、やわらかくて平面を出しやすい。

私は使ったことはないですが、ベスターも良いみたいです。

よく砥石にやたら凝る人がいますが、この組み合わせで刃物の性能は十分発揮できます。中には一つもまともに研げていない(刃先に砥石が当たっていない)にもかかわらず、刃物や砥石を多数収集している人もいます。困ったものです。

具体的な使い方ですが、1000番を2枚をすり合わせて常に平面をキープします。そしてそれを使って仕上げ砥石の平面も出しておきます。

1000番は研ぐ30分ほど前から水に漬け、十分に水を吸わせてください。研いでいる間は泥状のとぎ汁も水をかけてきれいに流して、目詰まりを起こさないようにします。

6000番はあらかじめ水を吸わせる必要はありません。

以下で詳しく触れますが、研ぐ時間と砥石を直す(平面を出す)時間が同じくらいになると考えてください。

研ぐ作業=砥石の平面を保つ作業とも言えます。

砥石の平面を保つ方法

平面出しは5分に一回くらい、頻繁に行ってください。

1000番の砥石二枚をすり合わせ、スムーズに動くようになるまでこすり合わせます。この際、前後だけではなく左右、円を描く動きも混ぜながら行うと偏りがなく平面を出すことができます。

どの動きでも均一に砥石が全体に密着するまでこすり合わせてください。引っ掛かりがなくなるまで砥石をしつこいくらい動かします。そりゃ砥石は減るのですが、微々たるものです。毎日研いでも一年は使えるので問題ありません。

この平面出しをした1000番の砥石は6000番の砥石の平面キープにも使います。

なお、頻繁に行うことをさぼってしまうと、平面出しが大変な作業になってしまうし、最悪平面を二度と出せない事態になってしまいます。

研いでいる時間と同じくらいの時間を平面出しに使ってください。ちょっと大げさだけど、それくらい大事な作業です。

大きく凹んだ砥石を直そうとすると、平面が出ているほうも形が崩れていきます。こうなるともうヤバイです。(下図)

ここまで行ってしまうと、平らなガラスなどにサンドペーパーを張り付けて、ゴシゴシして平面を出すしかなくなります。ということで、頻繁に平面出しをしましょう。

前後のストロークはゆっくりじわじわ

ベテランの職人さんはリズミカルにシャカシャカ研ぐ人が多いです。しかし、初心者はそれを真似してはいけません。ストロークは回数よりも質です!

ガタつかず浮かせず、刃先が砥石にしっかり当たっているか、それが大事です!

速いストロークは丸刃になりやすく、注意も散漫になります。慣れないうちは絶対にしてはいけません。

じゃあどうすればいいのかなんですが、砥石の手前から奥まで2~3秒くらいかけてゆっくり研ぎおろす感覚が重要です。じわじわ動かすイメージです。

しのぎ面が平らで裏がしっかり出ていれば、切れが止んだ刃物でも5分ほどで刃返りが出てきます。

繰り返しますが、ストロークは超ゆっくり!

しのぎ面と刃先がしっかり砥石に密着している状態で動かすこと、それだけに集中しましょう。

簡単な刃物で練習する

手の大きさにもよりますが、幅40ミリ程度の鉋が一番研ぎやすいと思います。加えて薄い刃よりも厚い刃が研ぎやすいです。厚い刃はしのぎ面が広くなるので安定します。

それら条件を満たすのが台直し鉋の刃だと私は思っています。

それを使って一連の作業を習得し、それから好みの鉋を買うと良いでしょう。ヤフオクなどで鉋身(刃)だけを買うこともできます。

なんか人間って難易度の高いことに挑戦したくなりますが、やはり簡単なものから段階的にステップアップしたほうがいいですね。

間違えても寸8の本番用高級カンナで練習をしないように!!

※余談ですが、包丁を正確に研ぐことがめちゃくちゃ難しいのはこの理屈でお分かりだと思います(しのぎ面が狭く角度を保てないから)。

販路拡大のために、一般の人向けに高級砥石が販売されていますが(刃の黒幕など)ちゃんと研ぐのは不可能だと思ってください。私も包丁に関しては上手に研げません。数百円でプロが機械で研いでくれるので、そういったサービス利用しましょう。

初心者は引いて研ぐと感覚をつかみやすい

通常刃物は押して研ぎ、引いてくる動きは戻るためと考えます。

でも、練習を始めたばかりでしのぎ面と刃物の一体感が感じられない段階では、引いて研いでも構いません。

私も一日の初めや刃物の持ち替え時は砥石の奥から引いて研ぎます。まだ感覚が研ぎ澄まされていないからです。

しのぎ面を砥石に密着させるためには、手前側に力が掛かっていることは分かると思います。なので押して研ぐ作業は、指先を手前に押しつけながら、腕を前進させる、という厄介かつ矛盾している動きになり、これが初心者を苦しめます。私は本当に苦労しました。

まだ慣れないうちは刃物をピッタリ砥石に密着させて、そのまま引いてきて、引ききったら浮かせてまた奥に持っていく、この繰り返しを試してみてください。

ちなみに鑿は引く動作だけでも研ぐことは可能です。

鉋は恐ろしく時間がかかるので、やはり押して研ぐ方が無難です。あくまでも感覚をつかむための練習として引いてみることをお勧めします。

悩んだら少しずつ違うことを試す

たとえば、足の位置を変えるとか目線を変えるとか、指の置き方を変えるとか、砥石台の高さを変えるとか、変化はいくらでも付けられます。

その中でも特に大切な変化は「指先に入れる力」と「持ち方」です。

力を入れすぎると引っ掛かって動かないし、力を抜きすぎると密着の感覚がわからない。そして持ち方が偏っていると刃物もどちらかに偏って減っていきます。

上手くいかないときは少しずつやることに変化を付けてみてください。そしてそれを記録しておいて、どういうときにうまく研げたかを後で振り返ると答えが見えてきます。

「刃物研ぎノート」をつけてみるのも一つの解決策になるかもしれません。

刃裏(はうら)は超重要です!

当たり前ですが、刃裏もとても重要です。

なので裏打ちは超重要、そしてこれも最難関の技術...

さて、しのぎ面がうまく研げるようになってから目が向くと思いますが、裏は仕上がりの早さと切れ味に重要な意味を持ちます。

上手く研げているのにどうも切れ味が悪い、そんな時は裏の状態が良くありません。

常に糸裏を保つと、仕上げ砥石で数回撫でるだけで刃先までしっかり平面を作ることができます。糸裏を保つためには裏打ちの技術が必須になります。

私も何度か鉋を割って...やっと習得しました。

出したいところを数回打つだけで出せるようになると作業効率が格段に上がります。

長期的にみると、裏打ちをまず習得すべきかもしれません。これも研ぎと同様に鉋を複数枚ダメにする可能性があるので、安い中古の鉋身をネットで買って練習しましょう。

決してやめない、あきらめない!

最後に精神論です。

刃物研ぎはいくら時間がかかっても習得に値する素晴らしい技術だと個人的には思っています。生活、考え方をも変える力を持っています。

諦めずに続けてさえいればどんな人にでも必ず習得できる技術なのでコツコツ毎日続けてみましょう。

どうしてもうまくできない方は相談に乗ります。ご連絡ください。

※ちなみに、下手な人が練習をすればするほど刃物の形は崩れていきます。いちど形が崩れてしまった刃物でいくら練習しても上達しません。その時は電動のグラインダーで形を修正する必要があります。これも忘れずに覚えておいてください。

まとめ:研ぎは木工の醍醐味、一生ものの技術

木工作業における刃物研ぎは、基本であると同時に、もっとも難しくやっかいな作業です。刃物研ぎさえマスターすれば、ほとんどの人が大工仕事を十分にできると私は考えています。

それほど、切れ味と長切れ(刃先の耐久度)は重要です。ですが毎回同じように研ぐことができるようになるには、鍛錬が必要です。

私は職業訓練校の木工科の2年課程を卒業しておりますが、その期間内に習得することができず、その後はだらだらと技能を補完することなく10年を過ごしてしまいました。

このままではいけないと思い立ち、研ぎとそれに関する技術を、思い切って時間をかけて再習得しました。

毎日3時間ほど研いで、3か月、中砥石1セット(通常2枚を同時に使います)、仕上げ砥石を一枚、潰しました。

思うように研げず、泣きながら研いだこともありますし、イライラしてものに当たってしまったこともあります。恥ずかしい話です。指がしびれて動かなくなったことも、あかぎれで絆創膏だらけになったこともあります。

ですが何とか一連の動作と考え方をものにし、今では普通の職人さんレベルの研ぎはできていると誇れるほどにはなりました。

ですが、油断はできないので、毎日1時間は研ぎと刃物の調整に時間を割くようにしています。

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